1.なぜ肥るのか?

■極端な栄養制限のダイエットが肥り易い体をつくる!

 さまざまなダイエット法が毎日のように紹介されています。しかし、そのほとんどが飢餓防衛システムをいたずらに刺激し、反対に肥り易い体質をつくっています。  生命活動の最重要テーマは生命維持、つまり「生き残ること」です。現在、地球上では12億人の人達が肥満となっています。しかし、数百万年の人類史上、過食による肥満でたくさんの人々が悩むなどという事は稀有なことであったに違いありません。そのため、極端な栄養制限という「人為的な飢餓状態」は、体に備わった飢餓防衛システムを発動させ、反対に栄養の吸収効率や貯蓄率がアップしてしまうのです。  そして、悪いことにリバウンドで体重がもとに戻ったときは、体重が同じでも体脂肪率がアップしています。筋肉の少なくなった体は基礎代謝も下がり、益々痩せにくい体になっていきます。これでは、ダイエットは完全に失敗です。  したがって、リバウンドしないためには、飢餓防衛システムを怒らせないダイエット法が必要です。  肥満の根本原因を考えずに、次々と違うダイエット法にトライすると、体重の増減を繰り返すウェイトサイクリング(ヨーヨー現象)に陥ることになります。

■ヒトの食欲調節機能は狂い始めている?  

このシリーズでは確実に痩せ、しかも健康的に痩せるということに限定してお話しします。  ダイエットをするには、まず入力を抑えるというアプローチと、出力を増やすという側面 がありますが、ここではまず、入力のコントロール即ち食欲の調整から取り組んでみたいと思います。  ヒトはストレスが原因となって、空腹だから食べて、満足したからやめるという調節機能が他の動物に比べて働きにくくなっています。  食欲のコントロールセンターは視床下部にあります。視床下部から高次の中枢にまたがった神経回路網に、血液成分情報やホルモン情報などの体内の『液性変化』が空腹情報や満腹情報として入力されていきます。これによってヒトや動物は食べたり、やめたりという行動を起こします。  野生のライオンがシカを襲うのは生理的空腹感からであって、満腹になれば食べるのをやめてしまいます。どんなに目の前に「ごちそう」が置かれても、それ以上食欲を示すことはありません。  ところが、ヒトという動物は大脳が大きくなったために、この調節系が働きにくくなっています。空腹だから食べるというよりも、食事時間だから食べ始めるし、それがオイシイものであれば満腹になっても食べ続けてしまいます。  逆に、イスラム教徒などは飢えてもブタ肉は食べないといったように、宗教上の理由で食欲にブレーキをかけることもあります。  このようにヒトの食欲は物質によって調節されているだけでなく『概念』によって調節を受けていて、むしろその方が主力になっています。  つまり生理的な機構よりも、慣習や思い込み、感情などで食欲が調節されてしまっているのです。  さらに、オイシイから食べすぎるだけでなく「ここで残したら相手が気分を悪くするであろう」「せっかく高いお金を払ったからもったいない」「フラレたから食べちゃう」などといった場合もあります。  このような生理的必要量を超えても、なおも食べ続けるという『オーバーラン』がいつのまにか頭の中では習慣化してしまって、ブレーキの掛かりが鈍くなった結果 が肥満です。

食欲の機構改革がダイエットの必要条件  

こうしてみるとダイエットは、体重・体脂肪を減らすことよりも、食べ方に対する本来的な『姿勢』を直すことの方が大切だということになります。ただ、体重・体脂肪を減らすだけでなく、その体重を長期間にわたって維持するためには、単に食べる量 を減らせばよいのではなく「食欲の機構」そのものを本来の状態に戻す必要があります。つまり、食事に対する『ゆがんだ概念や感覚認知』を修復することが大切だということです。  人間は必要だから食べるだけではなく、実にさまざまな動機からモノを食べています。特に太っている人では食事の概念、つまり『食べることの意味』が本人にも分かりにくくなっています。したがって、味覚や嗅覚といった感覚の認知にも、ゆがみが見られるようになっているのです。ひどい場合には、自分が何を食べたか、それがどんな味だったのかさえ自覚していません。   しかし、なぜ大脳の発達した人間がそのような異常な食欲システムを持ってしまったのでしょうか?その解明をしてみたいと思います。  まず生理的な食欲に関する情報は、視床下部でチェックされていることは述べました。 これらの動きによって動物に食欲が起こるのですが、ヒトの場合は視床下部の動きが直接の食事行動にはつながりません。実際に行動を起こすのは、もっと高い次元にある大脳皮質の判断によってなされています。つまりヒトの場合、大脳皮質が「食事システム」に入り込んでいるため、食欲中枢で「腹がへった」「満腹だ」の信号は出していますが、大脳に送られた場合の『認知』がおかしくなるケースがよくあります。  たとえば、空腹だから食べるというより、十二時のベルの音で「食事」を思い出したりするのは大脳の働きです。つまり、私たちの食事の動機には、体にとっての必要性からくる「代謝調節」だけでなく、時刻や状況に関連して頭が決める「概念調節」もからんでくるという二重構造になっています。  これが肥満を生む『摂食異常』の原因ですから、機構改革をしない限り肥満も解消しないということになります。

大脳皮質の暴走が過食を生んでいる

 この現象を、職場のタテ系列に見立てるとわかり易いかもしれません。食欲を見張る前線本部ともいえる視床下部では、エネルギーの収支バランスをチェックしながら食欲コントロールに関する判断材料を出しています。これをもとに行動を起こすかどうかの『経営判断』は、上司である大脳皮質の権限です。  ところが大脳皮質はその報告を受け取りながら、自分の立場や都合によってレポートを握りつぶしてしまったり、決断をわざと遅らせたりする。もっとひどい時には、自分勝手に報告を解釈して『営業方針』を立ててしまったりもします。  どんな職場にもこのような上司がいるものですが、部下としてはなかなか直言できないために、間違った判断のままの企業行動がまかり通 ってしまいます。食欲のコントロールに関してもこんな状態がよくあるわけで、食べることの意味の理解(=認知)が食欲から大幅にズレておかしくなったまま、日常生活が送られるようになります。  そこでこの食べ方に関する『認知』を変えることによって肥満を解消する必要があります。肥満患者を調べてみると、彼らの食行動は空腹感を動機とせず、目にする食物に強く支配されていて、本来のコントロールができにくくなっているといえます。

生命エネルギーが神経情報を整理する

 このような状態を一言で表現すれば「脳内の各機能の神経情報が混乱することによって、食欲調整システムが狂った」と言えます。このようなコントロール機能を失った脳の働きを本来の状態に戻すことでダイエットは成功します。  本来生命は各器官が全体として調和しながら働いて、生命を維持しています。そして、ゆがみを自動調整するシステムも体内に持っています。  しかし、ほとんどの人が感情とともに生じる不快感を押し殺し、体の中に抑え込んでいます。これがストレスとなって、心身の変調をきたしています。このストレスが食欲調整システムのゆがみとして表われたのが、過食による肥満なのです。  次回からこのゆがみの解消の仕方である、カロリー制限のない「モード切り替えダイエット」の具体的な内容についてお話ししたいと思います。